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小田急ロマンスカーの建築家 岡部憲明氏に学ぶ、「COLONY箱根」コンセプトデザインのメイキング
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小田急ロマンスカーの建築家 岡部憲明氏に学ぶ、「COLONY箱根」コンセプトデザインのメイキング

岡部 憲明 Okabe Noriaki

建築家

1947年 静岡県生まれ。1971年 早稲田大学理工学部建築学科卒業。1973年 フランス政府給費研修生として渡欧。1974-1977年 ポンピドゥー・センター及びIRCAM音響研究所の設計に従事。1977-1994年 レンゾ・ピアノと協同。1986年- フランス建築家協会会員。1988-1994年 関西国際空港旅客ターミナルビル国際設計競技優勝、実現に携わる。1996-2016年 神戸芸術工科大学教授。1995年-岡部憲明アーキテクチャーネットワーク代表。代表作に牛深ハイヤ大橋、東京ベルギー大使館、箱根登山電車アレグラ号、大山ケーブルカー、小田急ロマンスカー「VSE」「MSE」「EXEα」2018年3月運行開始予定の「GSE」など。

コロプラの研修施設「COLONY箱根」を設計した岡部憲明氏は、2018年3月に導入される小田急新型ロマンスカー70000形「GSE」や箱根登山鉄道「アレグラ号」の車両デザインをはじめ、今ではパリの観光名所の一つにもなっている「ポンピドゥー・センター」、「関西国際空港旅客ターミナルビル」の建築デザインなどにたずさわってきた、日本を代表する建築家です。

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そんな岡部氏に建築デザインをしていただいたCOLONY箱根はとてもユニークな形状をしていて、どんな過程を経てデザインされたのか知りたくなります。
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そこで恐縮ながらBe-ars編集部が岡部氏の事務所にお邪魔したところ......なんとポンピドゥー・センターの誕生秘話からコンセプトワークの進め方、COLONY箱根の具体的な楽しみ方まで教えていただくことができました!
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ものづくりをするコロプラに向けて岡部氏が考えた設計コンセプトとは? 建築家ご本人に解説いただくことで、COLONY箱根での過ごし方が変わってきそうです。

建築デザインの仕事は、
基本的にはゲームみたいなものなんです

この度は取材をお受けいただき、ありがとうございます。今日はCOLONY箱根の設計コンセプトや、先生が建築デザインをする上で大切にされていることなどを聞かせていただきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

岡部 こちらこそよろしくお願いします。ではまず、我々が普段している建築デザインという仕事についてお話ししますと、基本的にはゲームみたいなものなんです。いろんな条件や様式があって、フォーマルなことをリスペクトしつつ技術的な蓄積を入れ込みながら工期も守って作っていきます。
クリアしないといけないことがたくさんありますので、ちょっとゲームみたいでしょう。その上で時代に呼応する新しいものを作りたい、なるべく多様性を求めたい、というのが我々のアプローチなので、実はコロプラさんのお仕事と近いものなのではないかと思っています。

そう言っていただくと、たしかに近いものがありますね。COLONY箱根の形状を見ると、円でもなく三角でもなく四角でもない、とてもユニークな形状をしています。どのような過程を経て、またどんなコンセプトのもとにあのような形になったのでしょうか。

岡部 私は建築家としての仕事のほかに、神戸芸術工科大学の教授として二十年ほど授業をしていました。その仕事を受けた条件は「建築について話すのではなく、デザインを作ってきた歴史、美術史を教えること」でした。
デザイナーはまず知識の幅を身につける必要がありますし、その先にクリエイティブのバリエーションが広がっていきますから。初めから応用編や抽象的なことを教えても仕方がないので、授業では『ラスコーの壁画』(旧石器時代、クロマニヨン人が描いた動物の絵画)からスタートして現代美術まで教えて、「デザインとは何か」を考えさせるようにしていました。

応用編(ユニークな形状)に取り掛かる前に、学んでおくべきことがあるんですね。

岡部 そういうことです。美術史の授業の初めに『ラスコーの壁画』を取り上げる理由は、人間には古来から絵を描く力が備わっているということを伝えたいからです。
『ラスコーの壁画』はデザイン自体が素晴らしく、かつその発見のされ方が良かったので(1940年、村の少年たちが偶然見つけたというエピソードがあるので)有名ですが、同時代に別の場所でもあのような動物の絵はたくさん描かれていましたから、たった一人の天才が描いていたというわけではありません。絵を描く力は何も特別なものではなく、遺伝子に乗って現代の人間たちにも引き継がれているということを知っておいてほしいんですね。

人間には遺伝子レベルで絵を描く力があるなんて、考えたことがありませんでした。面白いですね。

岡部 それと一年生の授業では、言語能力を鍛えるためにレポートを頻繁に書かせていました。言葉で説明するということは頭の中で「抽象」をまとめることになりますから、デザインをする上でも重要なんですね。そうして基礎力や知識の幅を身につけたら、経験が重要になってきます。
私はポンピドゥー・センターの建築に関わって以来、特殊な建築のプロジェクト、橋や自動車のデザインにも関わってきましたので、その辺りの経験についても学生には話すようにしていました。それが使命だと思っていましたね。

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コンセプトに完璧に答えること
〜 ポンピドゥー・センターの建築に関わった日本人として 〜

パリのポンピドゥー・センターの建築に日本人が携わっていたとは驚きでした。 石造りで統一されたパリの街並の中にとつぜん現れる、スケルトンの建物ですよね。

岡部 ポンピドゥーは国際的なオープンコンペで、681案の中からイタリア人のレンゾ・ピアノとジャン・フランコ・フランキーニ、イギリス人のリチャード・ロジャースの案が通り、実現されました。私は1974年に参加しましたが、平均年齢30歳以下という大変若いチームで、イギリス人、スイス人、オーストラリア人、アメリカ人、日本人などがいる多国籍部隊でした。
設計の初期段階を除いてフランス人がいなかったのは、高度な技術を組み込んだ、あまりにモダンで挑発的な建造物であるがゆえに、一般市民やフランスの建築界の批判もあったからでしょう。

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パリは景観保護を非常に重視している街ですから、あのような特殊なデザインの建物が作られたのは、ある種の事件だったのではないかと思います。でもコンペで選ばれたわけですよね?

岡部 歴史の話になるんですけれども、1960年代の後半は世界的に学生運動が盛んな時代で、パリも街中が内戦状態だったんですね。その終焉の後、大統領(ジョルジュ・ポンピドゥー)が、全く新しい、市民のために大きく解放されたオープンな施設を創ろうとプロジェクトを立ち上げたんです。
それは近現代美術館と開放的な公共図書館、さらに工業デザインセンター、音響音楽研究所<IRCAM>、映画館、劇場スペースを含む一般市民に大きく開かれた現代文化総合センターとして建設されました。

コンセプトが「オープン」だから、スケルトンなんですね!

岡部 わかりやすいでしょう。あのプロジェクトが素晴らしかったのは、初めからコンセプトが明確で、そのために何を作りたいのか、どんな規模で何がやりたくてどうやるのか、ということがしっかり伝えられていたという点に集約されています。そしてピアノ、ロジャースたちの案は、都市広場も作るというコンセプトに完璧に答えていました。私はポンピドゥーの建築に26歳で関わり、それが建築デザインにおける考え方の基本になりました。

建築には、デザインや言語などの基礎力、知識の幅、経験、そしてコンセプトが重要である、と。

岡部 そして技術も重要です。ポンピドゥーのプロジェクトには、建築家チームに加えてアラップ社(シドニー・オペラハウスの設計と建築の経験を持つロンドンのエンジニア集団)が参加するなど、ヨーロッパ中から協力者が集まり、フランス政府側から優れた官僚がサポートしてくれました。
1977年に完成してからも私は増築や改築、展示空間の設計に携わりました。2017年1月31日には開館40年を迎えましたので、当時の仲間たちにパリまで会いに行きました。

たくさんの人が関わってものづくりをしていることや完成してからも増改築をしているところなど、コロプラのゲーム制作にも似ている部分があるような気がします。

岡部 どんなプロジェクトでもそうですが、作る段階では「わからないこと」をやらないといけないわけです。どうやったら成立するのかわからない状態で何か本質的なところを探して、いろんな知識を集めて、トライしていくしかありません。そういうところもコロプラのゲーム制作と通じているのではないでしょうか。

そうですね。ゲームを作っている過程はまさにそんな感じです。

岡部 フランス語では日曜大工のことを「ブリコラージュ」と言いますが、それは近年の文化人類学が明らかにした「野生の思考」、素晴らしい思想性を持っているという意味でも使われます。多くの人々が参加する中で様々な視点から多様に探求を含め情報を分析し、猛烈なスピードでアイディアを出し合っていくんですね。そのように創造的なアイディアが出やすいようにと、COLONY箱根のコンセプトを考えました。

COLONY箱根のコンセプト
〜 コロプラのオフィスを見学して考えたこと 〜

先生は20代でポンピドゥー・センターの建築チームに関わったという経験を軸に膨大な数の建築デザインをされてきていますが、小田急ロマンスカーや箱根登山鉄道の車両デザインも手がけられるなど、箱根に関連したお仕事もされていますね。COLONY箱根の建築デザインをしていただく上で、重視されたのはどんなことだったのでしょうか。

岡部 建築というのは、敷地が選ばれたら世界にひとつしかないその敷地をどうするかというところから立地や土地の条件について読み解く必要があります。それから利用する人たちの想い、そこで何をしたいのか、ということをどうマッチングできるか、と考えていきます。

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今回の立地や土地の条件を、先生はどう読み解かれましたか。

岡部 箱根は歴史的にも非常に特殊なところですけれど、季節や気候云々の前に、国立公園なので厳しい縛りがあるんですね。屋根の勾配はこうでないといけない、建物の高さも10m以下にしないといけない、色はこの範囲から選ぶ、建ぺい率も非常に限られている......という中で、どうするか。
今回は建築面積をできるだけ広くするために敷地の形を活かすことにして、かつ地盤をフラットにするのではなく、自然の勾配のまま残しつつ建物を配置しました。

敷地の形に合わせて、あの形にされたんですか?

岡部 それも理由の一つですが、同時にコンセプトがあります。

建築デザインのコンセプトとは、どんなふうに決めるものなんでしょうか。

岡部 今回はデザインに取り組む前に恵比寿のオフィスを見学させていただいたんですが、コロプラのみなさんは私が教えていた学生たちよりものびのびしていて、見ていて気持ちが良い仕事場でした。
この方たちが箱根に来た時にどんなふうに過ごせたらいいのか というところから考えました。集中したりくつろいだり、1日のうちでみなさんの動きも違うと思いますが、この建物の中にいる時は、どこにいてもリラックスしながら考えることができる環境づくりを心がけました。

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私たちのオフィスにお越しいただいたんですね。

岡部 ちょっと観察しているうちに、一人で集中している時もあれば、みんなで集まって話し合いをしている時もあるということがわかりました。それからみなさんが立ったり座ったりしながら仕事をしていたのも印象的でした。
そこで恵比寿のオフィスでのみなさんの行動が、よりバリエーションを持ってできるようになり、かつ空間的に豊かになるようなデザインにしようと決めました。どのくらいの人が集まってどんなことをやるのか、ということを読み解くのが重要です。

私たちの普段の行動と、箱根の土地をマッチングさせることがコンセプトになったんですね。

岡部 箱根は、あっという間に気候が変わるんですよ。とつぜん霧が出たり雨や雪が降ったりと、多様なシチュエーションに置かれるんです。少し動けば富士山が見え、箱根の山も谷も見えますし、凝縮した自然のパワーがあります。
COLONY箱根は箱根の自然環境をいつも感じられるような建物にしたかったのでガラスは法の許す限り増やしました。ただ、そのぶん冬は寒くなるので、暖房設備をしっかり入れてあります。

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自分の好きな場所がきっと見つかる
建築デザインの仕掛け

中庭は全面ガラス張りですよね。

岡部 アプローチに入り玄関に近づくと、その先に中庭が見えるようにしています。すぐに自然が目に入るのではなくて、向こう側に光り輝いている中庭、空間の多様性が見えるわけです。既存の高木だけだと幹しか見えなくなるのでヒメシャラや山桜のような中木や低木を加え、季節によって楽しめるような植栽を選んでいます。冬は葉が落ちてしまうけれど、そのぶん空の面積が増えて室内が明るくなるとか、1月、2月、3月、4月、5月......とすべての季節を楽しめるように考えて作っています。

それぞれの季節に楽しめるポイントがあるんですね。

岡部 中庭に面して階段があるんですが、上り下りしやすくなるように段差をゆるくしてあるので、みんなエレベーターより階段を使うようになると思います。段差がゆるいと、自然と人は階段を使うものなんです。歩きながら考えると脳が刺激されますから、階段だけでなく、回廊も巡ってもらえたらと思います。移動というのは非常に重要で、いいアイディアが出てきます。

身体的にアイディアが浮かびやすくなるような建築デザインをしていただいているんですね。

岡部 コロプラさんはクリエイティブの会社ですから、空間にメリハリをつけてダイナミックなデザインを心がけました。この建物ではどこにいてもものを考えることができるようになっているので、動き回った時に、自分の好きな場所、気分が良くなる場所がきっと見つかります。一つ一つの部屋から見える風景も違いますし、角をちょっと曲がったら違う景色が見えるとか、空間の豊かさを随所で感じられるようにしています。

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円でもなく三角でもなく四角でもないこの形だから実現できることがたくさんあるんですね。

岡部 まず、円の建物の中にいると人は方向感覚がなくなって、どこにいるのかわからなくなっちゃうんですよ。一方、COLONY箱根では三箇所のコーナーを作り、それぞれの場所から景色が抜けて見えるように設計しているので、あそこに行ったらこれが見える、あれが見える、と自分がどこの方向に向いているのかわかるようになっています。三つのビューポイントがあるわけですね。また、どこから見ても自然の風景が見えるように工夫しています。

あちこち歩いて回りたくなりそうですね。

岡部 もう一つ大事にしたのが、建物全体を通して「みんなが一緒にいるな」と思える世界にすることでした。仲間がどこにいても、すぐ見つけられるように設計しています。空間を閉じたものにせず、いつの間にか人が集まって別の行動ができるような工夫をあちこちでしています。

ものづくりをする環境として、最高のデザインをしていただいたんですね。

岡部 ダイニングの暖炉は絶対にあるほうがいいと思って設置しました。人間は古来から、火に対する親しみがあるんですね。暖炉の灯りがあるかないかで、空間の中の印象はずいぶん変わります。火の動きというのは見ているだけで落ち着きますし、暖かくなるんです。
それに人が集まるようになります。あと中庭の水盤も、絶対に必要だと思って設置しました。水が風に揺れるのを太陽が照らし壁に反射すると、変化のある風景を作り出します。水があると必ず鳥が来ますので、楽しいと思いますよ! 誰かがそれを見ているのを見かけるだけでもホッとするでしょう。

暖炉も水盤も、恵比寿のオフィスでは絶対に取り入れられない設備です。

岡部 人類には火と水に対する基本的なメモリーがあるので、その効果は抜群です。箱根に来ることで、より豊かな精神性を持ったクリエイティブをしていただけるようになるといいなと思います。温泉も、風景の中にあるということを非常に意識して作りましたので、露天風呂の庭の景色と目の前にせまる山の景色を一緒に味わっていただければと思います。

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COLONY箱根は、コロプラ社員に限らず、企業・団体さまにも貸し出しをしています。利用される方に向けて、 メッセージをいただけますか。

岡部 我々としてできる限りの場を作ったので、みなさんにどう使ってもらえるか、楽しみです。会議室やアクティビティ・スペースは使い方をトライアルできる自由な場所なので、やりたいことがいろいろ出てくると思います。春夏秋冬それぞれの楽しみ方がありますので、どんどん使っていただきたいですね。

お話をお聞きしているうちに、いろんな季節に行って楽しみたいなあと思うようになりました。貴重なお話を聞かせていただき、誠にありがとうございました!

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※ 本記事内の写真は岡部憲明アーキテクチャーネットワークより提供いただきました(一部COLONY箱根の内観画像を除く)。